私は前職でホテルコンシェルジュをしていました。
さまざまなリクエストや相談に対してその期待に応えるがコンシェルジュの仕事ですがそのなかで「美味しいレストランを予約してほしい」というリクエストがあります。
特に外国人のお客さまは東京のことを良く知らないのでご自身で見つけるのは難しく、ホテルのコンシェルジュに聞けば間違いないだろうという、そんな期待を持って相談に来られます。当時から日本食は海外からも評判が良かったのでそれも相まって高い期待を持っていらっしゃる方が多かったです。
ただこのリクエストの期待に応えるのは結構難しいもので、お客さまの言っている「美味しい」とはどんな意味なのかを理解しないと、その期待に応えることはできません。期待に応えられないと結果的にそれがホテルの評価になってしまうことがあります。
私が働いていたホテルは銀座にあり美味しいストランはたくさんあります。
日本の伝統的な料理から最先端なものまで。雰囲気も静かなところや音楽の流れるところ、個室だったり、ホールのようなところだったりと実にさまざまなレストランがあります。さらには誰と行くのか、どんな目的でいくのかでも選び方は変わってきます。

もちろんお客さまとお話をする時間が充分にあればあれこれと聞くことができ、それに合わせたレストランを探し出せるのですが、お客さまは次の予定があって充分に話すことがでず「あとでホテルに戻ってきたとき教えてね」といって外出される場合もあります。そのときは短い時間で得た情報のなかから探すしかありません。そんなときこそコンシェルジュの腕の見せ所です。私はレストラン選びを得意としていたのでそういったリクエストをもらうと燃えていました(笑)。
例えば、明るく朗らかな雰囲気があり少し早口に話すビジネスマンでネクタイは有名ブランドのものを付けている方なら銀座の高級なお寿司屋さんや鉄板焼きのレストラン。
ゆっくりとした話し方で物静かなご夫婦なら、会席料理のような見た目も綺麗なお料理が出てきて個室の落ち着いた空間で、女将さんが英語でも丁寧に説明してくれるようなお店など。
短い会話の中でも得られる情報は結構あるもので、お客さまの期待に応えられることはできます。それはまさに「一を聞いて十を知る」ことでした。
それはいま思えばそれはコーチングのなかで使う「傾聴」のことで、相手の話している「美味しいレストラン」という言葉だけでなく、雰囲気や身振り手振り、洋服や表情から読み取ることを無意識に行っていたのです。お客さまがイメージしていたものと合致していると「この人は自分のことを分かってくれた」となるのです。
さらには候補のお店を3つほど選んでおいて、ホテルに戻られたときにお客様に選んでいただくと自分で選んだというのがより満足度が上がります。
実際にレストランで食事をしてホテルに戻られたときに「あたなが紹介してくれたレストラン本当に美味しかった。楽しい時間を過ごせたよ!」などとコメントを頂けたときは私も本当に嬉しかったですし、それがホテルの評判に繋がり「あのホテルはいい」となりリピーターやご紹介を得ることがありました。
短いやり取りのなかには得られる情報がいくつもあり、そこに耳を傾けることで相手は自分のことを分かってくれたとなることがあります。「一を聞いて十を知る」という言葉は昔からありますが傾聴はまさに同じで、そして実は無意識に使っているものでもあるのです。